少し前、尾道に二日ほど滞在した時、向島へ渡った。離島といっても、港から数分の距離である。船に乗るのは好きだ。わずかな時間でも、日常から切り離される感じがある。料金は百円で安い。

ぼんやりと波が揺れる様子を眺め、海をわたる
乗客は多くないが、年配者、自転車、バイク、自動車までいて、生活の匂いが混ざっていた。

年配者だけでなく、結構若者も利用している。生活になくてはならない交通手段なのだ
向島に着いて驚いたのは、住宅地が思いのほか充実していたことだ。離島と聞くと、過疎のイメージが先に立つ。しかし調べると、島には橋があり、車で本土と行き来できるという。なるほどと思った。日常的に車で渡れるなら、住宅地として発展するのも自然である。
ではなぜ船が必要なのか。これも理由があった。JR尾道駅のすぐ近くに船着き場があり、利便性が高いのだ。橋は少し離れた場所にあり、しかも高台を越えて渡る構造になっている。徒歩や自転車には厳しい。だから船が生き残っている。交通の選択肢が複数あるというのは、島にとって強みなのだろう。
島では老舗のパン屋に寄った。創業百年とあった。こういう店があると、土地の歴史が急に立ち上がる。

創業100年というパン屋
さらに、Perfume(パフューム)が雑誌の取材で訪れたというお好み焼き屋もあった。芸能人が来たという話は、どこでも少し誇らしげに語られる。島の空気に、ほんのりとした明るさが混ざる。

Perfumeが雑誌の取材で訪れたというお好み店。Perfumeのファンにとり聖地となっている
歩いていると、離島らしい静けさと、生活の音が同居していた。洗濯物が風に揺れ、遠くでバイクのエンジンが鳴る。観光地のようで、観光地ではない。非日常と日常が、境目なく重なっている。こういう曖昧さが好きだ。
尾道の陸地に戻った後、千光寺へ向かった。山の上にある寺で、ロープウェイに乗ると、さっきまで歩いていた向島が眼下に広がった。海に浮かぶ島影が、どこか別世界のように見える。自分が歩いたのはあの辺だろうかと、ぼんやり眺めた。地上で感じた生活の気配が、上から見るとひとつの風景として静かにまとまっている。不思議な感覚だった。

海を挟んで向こうに見えるのが、さっきまでいた向島
船で渡った島を、今度は山の上から見下ろす。視点が変わるだけで、同じ場所がまったく違う表情を見せる。旅の面白さは、こういうところにあるのだと思う。
帰り道、次はどの島に行こうかと考えた。離島は、いつも静かに呼んでくる。


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