今、世界の楽器業界が大きく揺れている。ギブソンと並び、エレキギターの歴史を築いてきた2大ブランドの一つであるフェンダー社が、自社の代表作「ストラトキャスター」のデザインを巡り、大手メーカーに対して製造・販売の停止を求める警告書を送ったからだ。
その警告を受けた大手メーカーとは、ポール・リード・スミス(PRS)社である。実は私もPRSのギターを所有しており、昨年も新しいモデルを購入したばかりなので、今回のニュースには特別な思い入れと驚きがある。
私自身もギターを弾くのでよく分かるが、現代において「ストラト」という形状は、あまりにも一般的なものだ。それはもはや、ギタリストにとって空気のように当たり前に存在するデザインであり、完全に一般化している。
この関係は、パソコンの「Microsoft Office」と、無料の互換ソフトである「OpenOffice」などの関係によく似ている。本家が広く普及して業界の標準(デファクトスタンダード)になった結果、他社が同じような機能や保存形式を持つソフトを出すことが、今では当たり前のように認められている。ギターの世界でも、ストラトの形状はそうした「誰もが使える共通の形」として定着していたはずだった。
実は歴史を紐解くと、フェンダー社はこれまでにも、このデザインを守るために何度も法的な戦いを挑んできた。しかし、形そのものを独占する「意匠権」はとっくの昔に期限が切れている。さらに、アメリカでの商標権を巡る過去の裁判でも、「ストラトの形状はすでに一般的になりすぎている」と判断され、思うような結果を得られなかった経緯がある。ロゴやヘッドの形状は守られているものの、ボディの形そのものは「みんなの財産」になっていたのだ。
ところが最近、フェンダー社は新たな後ろ盾を手に入れた。ドイツでの裁判において、「ストラトのデザインは単なる工業製品ではなく、芸術作品(応用美術)としての著作権が認められる」という異例の判決を勝ち取ったのだ。この欧州での判例に勢いを得たフェンダー社は、今度はPRS社のような世界の大手メーカーへと警告の矛先を向け始めた。
ビジネスの世界は厳しい競争環境であり、企業は自社の利益やシェアを守る必要がある。フェンダー社としても、本家を超えるようなクオリティで迫るPRSのストラトタイプ(シルバー スカイ)に市場を脅かされ、必死の防衛策に出たのだろう。企業としてのその論理は理解できなくもない。
しかし、ギターとは本来、弾く人の心を心地よくさせたり、高揚させたり、ロマンチックな気持ちにさせたりする「夢を売る道具」のはずだ。音楽という自由な文化を育んできたその道具を巡り、裏側でこのような泥沼の法的攻防が行われているのを見るのは、愛好家として正直に言って少しがっかりしてしまう。
文化としての「一般化」と、企業としての「厳しいビジネスの現実」。この二つが激しく衝突する今回の騒動は、楽器が持つロマンと、現代ビジネスのシビアな境界線を私たちに問いかけている。

コメント