老後1億円必要!が話題に。しかし試算した研究員の所属組織を見れば、カラクリは一目瞭然

少し前、テレビとかネットで「ゆとりある老後には総額1億4,000万円が必要」というニュースが話題になっていた。以前、老後2,000万円問題も世間をざわつかせたが、それを大きく越える金額である。多くのため息が聞こえてきそうだ。

とはいえ、だ。この手のショッキングな数字を見て右往左往する必要は、正直言って1ミリもない。結論から先に言うと、あのシミュレーションは、現実のライフスタイルをまったく無視した、不自然な前提の上に組み立てられている。

その中でも一番おかしな点は、「65歳の支出ペースが、そのまま95歳まで30年間、まったく同じ速度で続く」という前提だ。

50代や60代前半の頃の感覚のまま、95歳の高齢者が暮らすなんてことなんて、あるものだろうか。普通の人間なら、年を重ねると食欲も自然と落ちてくるし、長時間の移動や旅行も、だんだん億劫になってくる。洋服への興味だって、薄れていたりする。夜の街に繰り出して豪遊するなんてことも、体力的に厳しくなっていくだろう。つまり、活動量が落ちていくのに合わせて、お財布から出ていくお金のほうも、放っておいても「自然と減っていく」はずだ。

それなのに、95歳の老人が65歳の頃とまったく同じ旺盛な食欲と行動力を保ったまま、毎日せっせと消費し続ける。そんな超人的な高齢者像を土台にした試算に、一体どれほどのリアリティがあるというのだろう。

では、なぜ賢いはずの専門家が、わざわざそんな「白々しい前提」を作ってまで、1億円という数字を弾き出すのか。理由は、実にシンプルだ。その人が「どこのサイフからお給料・ギャラをもらっているか」を見てみれば、すべて腑に落ちる。

というのも、今回の試算を出したのは、大手保険会社系列のシンクタンクである。

彼らのビジネスは、突き詰めれば「将来の不安」を原資にして成り立っている商売だ。人は「老後が不安だ」と恐怖を感じて初めて思考停止し、その安心を買うために保険という名の「商品」に、つい手を伸ばしてしまうものらしい。わざわざ「保険に入りましょう」と直接言わなくても、メディアを使って大きな不安の種を植え付けること自体が、彼らにとっては十分すぎるほど強力な営業活動になっているはずである。

これは、何も保険業界に限った話ではない。

住宅メーカーの人間が「家なんか買わずに賃貸のほうが身軽でいいですよ」なんて言うはずもないし、自動車ディーラーが「車なんて維持費の無駄だからカーシェアで十分ですよ」と主張することもまずないだろう。ラーメン屋が「ラーメンは体に良くないから、うちには来ないほうがいいですよ」なんて言わないのと、まったく同じ理屈だ。世の中のあらゆる業界が、自社の利益につながる――つまりはポジショントークを、いかにも専門的なデータという化粧を丁寧に施した上で、世に発信しているのだ。

「ラーメン屋がラーメンを美味いと言うのは、まあ当たり前の話だよね」

これくらいの、ちょっと冷めた目と、それでいてフツーの批判精神さえ持っていれば、メディアが垂れ流す恐怖マーケティングに、いちいち振り回されることもなくなると思う。他人が作った、盛られた1億円試算に、マジメに付き合う必要なんてどこにもない。自分の胃袋と、体力の衰え具合に見合った、身の丈にあった計画さえ立てておけば――老後は、それで十分なのではないか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました