九州へ出張した話の続きだ。宮崎で夜、一人呑みした翌朝、取材チームと合流した。翌日の仕事現場である熊本へ向かうためだ。

レンタカーに乗って進み始めたが、高速道路に乗る前に昼食を取ろうという話になった。車の進行方向、国道沿いに古びた一軒の店を見つける。なぜかチームのリーダーが外観に惹かれたのか、そこで食べようと言い出した。

年季を感じる店構え。店内に入ると、客席はテーブルが三つ、そしてカウンター席が六つか七つほど。こぢんまりとした、気取らない造りで私も気に入った。
メニューに目をやると、本日の定食としてとんかつ定食があった。迷わずこれを注文した。私は以前から旅先や、初めての店ではなるべくその店の「定番」を食べることにしている。
運ばれてきたのがこれだ。

写真では分かりづらいかも知れないが、その量はかなりのものだった。以前なら何ということはなかっただろう。お腹が減っていれば問題なく食べきった。しかし、近頃私はどうも少食になってきているので、一抹の不安を覚えた。完食できるかどうか自信がなかった。
食べ始めたが、やはり多い。夢中で食べ進めたものの、三分の一ほどを食べたところで、急に箸が重くなった。それからが辛かった。
店を切り盛りしているのは、どう見ても人のよさそうな老夫婦。視線をやると時々、目が合った。ここで残すわけにはいかない。私の潜在する大和魂が、どうしても承知してくれないのだ。
私は、苦渋の面持ちで、必死に食べつづけた。そして、なんとか完食した。胃袋が悲鳴を上げているのを感じた。
食後、我々は予定通り、熊本へ移動した。夜となる。皆で食事をしようということになり、居酒屋に入った。

実は、昼食の巨大とんかつ定食が、まだ胃の中にどっしりと居座っていた。胃壁にへばりついて、動こうとしなかった。
私はとりあえずビールを一杯飲んだ。あとはほとんど何も食べられなかった。目の前には、馬刺しはじめ、おいしそうな料理が並んでいるにもかかわらずだ。
チームの残り二人は、「うまいうまい」と言いながら、次々と料理を注文し、平らげていく。

私はただそれを見ているだけだった。無理に食べようとして、また苦しい思いをするのはもう御免だ。食欲とは、己の心と身体の率直な要求である。その要求が「休め」と言っているのなら、静かに従うべきだろうと自分を納得させた。
お酒も進まず、ただチームの2人がせわしなく動かしている箸を眺めていた。私には食べられない幸福が、彼らの箸先にはあるのだ。



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