少し前、自民党の小野田紀美参院議員が、議員会館で使っている掃除ロボットを警戒すべきだと発言した。製造国は、いわゆる「彼の国」である。名指しするまでもなく、読者諸賢にはお分かりいただけることだろうが、その掃除機にはカメラやセンサーが付いており、それが室内の間取りや機密情報を収集して、海を越えて送信される可能性があるというのだ。
最初、そのニュースを耳にした時、私はこう思った。「そんなことまで心配しなくてもいいのでは」と。一国の政府が、掃除機のカメラを通してまで必死に情報をかき集めるだろうか。もしそれが事実だとしたら、あまりに涙ぐましい努力ではないか。いくら何でも考えすぎだろうと、どこか他人事のように感じていたのである。
しかし以前、四国へ出張した折、タクシーの運転手から聞いた話を思い出し、私の考えは少しずつ変わり始めた。やはり、警戒するに越したことはないのかもしれない。
その運転手によれば、時折、彼の国の当局関係者を客として乗せることがあるという。近年、日本の地方都市と彼の国の主要都市を結ぶ直行便が開設されるようになったが、その過程で来日するようだ。
だが、その乗車マナーたるや、なかなかに凄まじい。後部座席に深々とふんぞり返り、土足の足を運転席の背もたれに平気で上げる者もいる。降りる時には大量のゴミを置いていこうとし、運転手がそれを咎めると、紙幣を投げつけてくる。これで満足だろう、と言わんばかりの態度だ。そこは日本人の運転手である。札を返し、ゴミを持って帰るよう静かに諭すと、相手は侮蔑的な言葉を吐き捨てて出ていくという。
それはそれとして、驚くべきは彼らの車内での行動である。
運転手によれば、彼らはただ乗っているだけではない。手元のスマホを取り出し、車内の様子をバシャバシャと撮影し始めるのだという。運転席の計器類はもちろん、料金メーター、運転手の手元、果ては小物入れの隙間に至るまで、狭い車内の隅々を執拗に撮る。「あれは決して、観光の記念撮影といったレベルではありませんでした」と言っていた運転手の言葉が、妙に印象に残っている。
この話はずいぶん前のことだったので、すっかり忘れていた。しかし小野田議員の掃除ロボットの話を聞いて、突如として記憶が繋がったのである。掃除機のカメラが室内の情報を吸い上げるという話も、あながち空想とは笑い飛ばせなくなってきた。
それにしても、彼の国の当局関係者は実に「仕事熱心」である。
彼らの本来の業務は、直行便開設にまつわる県庁職員との交渉のはずだ。しかし彼らは、移動のタクシーの中でも手を休めない。公務という「オン」の時だけでなく、移動中という「オフ」の時間であっても、隅々のデータ収集に励んでいるわけだ。
一国のエリートともあろう方々が、タクシーの小物入れまで必死に接写する。そのあくなき、というか、さもしいまでの探究心には、いっそ頭が下がる思いがする。掃除ロボットもまた、主人が寝静まった夜中に、せっせと「オフの仕事」に励んでいるのかもしれない。本来なら休んでもよい時間にまで、そこまでして働かされるとは。そのあまりの勤勉さというか、必死すぎるご奉公の姿を想像すると、私はただ、気の毒を通り越して赤面してしまうのである。



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