タクシーと一杯のコーヒー

その他

人生は何が起こるかわからない。当たり前のことだが、案外そうでもないようにも聞こえる。しかし世の中を眺めてみれば、「え、そんなことが!」という事実が少なからず転がっているものだ。

以前、A氏から直接聞いた体験談を紹介したい。その人物はかつてタクシーのハンドルを握っていた。ある時、いつものように街を流し、手を挙げた一人の年配男性を乗せた。目的地までの道中、二人は何ということもない世間話をしていた。ほんの雑談である。

目的地が近づいた頃、客が妙なことを言い出した。「少し時間をつぶしたいから、喫茶店で話し相手になってくれないか」というのだ。ドライバーは制服のまま、客と共に店へ入り、コーヒーを啜りながら相手を務めた。

話が終わる頃、客が意外な提案をしてきた。「君、うちの会社に来ないか」。 聞けば、その年配の男性は某有力企業の創業者であった。ドライバーは悪くない話だと思い、その提案を受け入れた。

新天地で彼は必死に働いた。みるみる頭角を現し、現在、彼はその会社の役員にまで上り詰めている。あの時、客と喫茶店へ行かなければ。年配者の誘いに乗らなければ、今の地位はないだろう。そもそも、あの客を乗せていなければ──。

人生の当落が、一台のタクシーと一杯のコーヒーに掛かっていたかと思うと、まったく不思議なものだと感じる。

人生、どこにチャンスが転がっているかわからない。偶然入った酒場で知り合った人と意気投合し、そのまま起業に漕ぎつけることもあるだろう。昨夜、ビジネス街のバーの前を通りかかり、そんな運命の分岐点を考えていた。

実を言えば私にも似たような経験があるのだが、それはまた、いつかの機会にでも話すことにする。

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