著名人の訃報に触れると、亡くなる直前まで仕事をしていたという逸話をよく耳にする。例えば、私が尊敬する漫画家のやなせたかし氏もそうであった。氏は「生涯現役」を口にし、事実、その最期まで筆を執っていたという。他にも、亡くなる数ヶ月前まで次の企画を練っていたなどという話は、世間にざらにある。
私は長い間、それらの人々を単に仕事熱心な人たちだと解釈していた。もちろん熱心には違いないが、近頃はどうもそれだけではないように思えてならない。
少し話がそれる。以前、ある外科医がこんなことを語っていたのを思い出す。
彼は長年、メスを握り、生死の境目を彷徨う患者と向き合ってきた男である。「手術中、患者が生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされることがある。経験から言うと、最後は『まだ生きたい』と本人が思うかどうかにかかっている。もう駄目だと観念すれば駄目だし、まだいけると思えば助かるものだ」。
医学という、いわば科学の最先端にいる人間が、精神の力が肉体に及ぼす影響を認めているのである。なんとも感慨深い話ではないか。人は寿命が来たから死ぬ、と簡単に片付けられがちだが、実際には「まだ生きたい」という執着が、死神を遠ざけることがあるらしい。もちろん不本意な死に方もあるのは事実であろうが。
そこで冒頭の話に戻る。
彼らが死ぬ間際まで仕事をしていたのは、単に勤勉だったからではない。仕事がある、なすべきことがある、その強烈な思いが、死ぬぎりぎりまで彼らを生かしていたのだと思うようになった。
妙な言い方になるが、実際には肉体の方はとっくに寿命を迎え、死んでいたのかも知れない。それを、精神力が無理やりに引ずり回して、生かしていたのではないか。精神が肉体を牽引していたといってもいい。なすべきことがなくなれば、精神は肉体を解放し、人は土に帰る。
なぜだか最近、そんなことを考えるようになった。私もそろそろ、何かに引ずり回されたいと願っているのかも知れない。いやいや、まだまだ私にはすべき仕事があるので生きたい。


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