このところ、ホテルのバーを利用することがちょくちょくある。仕事帰りに一人でふらっと寄ることもあれば、京都に来られたお客様を案内することもある。どちらにせよ、バーという場所には独特の居心地の良さがある。
お腹が減ればコンビニでパンを買えばいいし、喉が渇けば水道をひねれば水が出る。家で缶ビールを開けて飲むだけでも十分に満足できる。なのに、わざわざホテルのバーに行くのはなぜなのか。自分でもよくわからないが、照明を落とした空間で、静かに流れる音楽に包まれ、きっちりした服装の店員にお酒を作ってもらうと、何か特別な気分になる。
バーでは、考えごとをすることもある。誰かと一緒の時は、普段なら話さないような込み入った話題を投げかけると、意外に深まることがある。周囲のざわめきが少ないせいか、言葉がまっすぐ届く。相手の表情もよく見える。こういう場所で話すと、同じ内容でも少しだけ重みが増すような気がする。
ホテルのバーは、客層もさまざまだ。観光客らしき人もいれば、仕事帰りのビジネスマンもいる。カウンターで一人、静かにグラスを傾けている人を見ると、勝手に人生を想像してしまう。何か良いことがあったのか、あるいは少し疲れているのか。もちろん、こちらの想像など当たっていないのだろうが、そういう余計なことを考えるのもまた楽しい。
バーの良さは、時間の流れがゆっくりになるところだと思う。家にいると、ついスマホを触ったり、テレビをつけたりしてしまう。気づけば時間が過ぎている。しかしバーでは、目の前のグラスと、店内の空気と、自分の思考だけがある。余計なものがない。だからこそ、少しだけ自分に戻れる。
先日、京都に来られたお客様を案内した時のことだ。最初は緊張していたが、カウンターに座ってしばらくすると、相手の表情が柔らかくなった。こちらも自然と肩の力が抜けた。気づけば、普段なら話さないような話題にまで踏み込んでいた。バーという場所には、人の距離をそっと縮める力があるのだろう。
もちろん、毎日行くような場所ではない。財布にも優しくない。しかし、たまに気分を変えたい時、あるいは少しだけ自分を整えたい時、ホテルのバーはちょうどいい。大人になったというのは、こういう場所の良さがわかるようになったということなのかもしれない。

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